2023年7月中旬、それはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による最初のフルカラー画像と分光データを受信してからちょうど一周年にあたります。Optics & Photonics News今月号の巻頭記事で取り上げているように、私たちは、最初の画像が公開されて以来、JWSTから送られてくる新たなデータ、発見、視点に驚嘆し続けています。光学やフォトニクスの世界に身を置く人々は皆、この新たな宇宙の姿や、その中における人類の立ち位置を可視化するために光科学や光工学が果たしてきた中心的な役割について、誇りに思っていることでしょう。
JWSTによる最初の成果から一周年というこの節目は、時には長くなることもある科学的発見の道のりに想いを馳せるのにふさわしい瞬間です。これらの最初の画像は、この望遠鏡が1989年に最初に提案されて以来、30年以上にわたる紆余曲折を経てようやく得られた成果なのです。そして、その道のりはコストの増加、打ち上げの延期、それらのトラブルに見合うだけの価値がこの宇宙船にあるかどうかといった論争に彩られたものでした。
その一方で、科学者や技師たちは、几帳面に前進し続けてきました。彼らは、それまで存在しなかった宇宙仕様の画像処理技術、赤外線ミラー、光学機器などの設計・構築・試験を辛抱強く進めていたのです。そして、これらのシステムを統合して、これまでで最も複雑な宇宙観測所を作り上げました。2021年12月から2022年7月にかけて宇宙船を打ち上げ、宇宙に展開し、地球から150万キロ離れた L2ラグランジュ点の周りを周回させました。そして、その広大な距離を越えて、最初の光のために望遠鏡の設定を行いました。JWSTから送信されてきた一年分の結果と、今後20年にわたり観測が行われることを踏まえると、待った甲斐があったことに疑問を持つ人は今日ではほとんどいないでしょう。
私たち人間は、先見の明のあるアイデアやブレークスルーに惹かれることがよくあります。しかし、そのようなブレークスルーにつながる長期的な忍耐と訓練こそが、科学や工学の隠れた物語なのです。例をもう一つ挙げましょう。42年ほど前、リチャード・ファインマンは、ある有名な会議における講演の中で、量子原理に基づいた全く新しいタイプのコンピュータの可能性を示唆しました。彼は、そのようなコンピューターを作るのは「容易なこととは思えない」と控え目に付け加えています。しかし、本号の 特集記事にもあるように、ファインマンの講演から40年経った今日、量子ハードウェアやソフトウェアに取り組む数多くの研究グループによる努力のおかげで、量子コンピューターをはじめとして、量子センサーや暗号システムなどが実用化に近づきつつあります。
これらの例は、科学が「チームスポーツ」であることを示しています。技術が最初の見込みから商業的に現実のものとなるまでの道のりにおいては、一人一人の忍耐と情熱も重要な役割を果たしています。今月号の三つ目の特集では、光学やフォトニクス技術を中心としたビジネスを構築している「注目すべき起業家」10名にスポットライトを当てています。これらも、研究室で長年にわたり忍耐強く前進し続けてきたチームワークの成果であることが多いのです。
私は、今年5月にカリフォルニア州サンノゼで開催されたCLEO大会で見聞きした最新の研究に携わっている人々が、未来の起業の物語となるかもしれないと思うと、爽快な気分になります。この大会は、旧友たちと再会し、同僚とブレインストーミングを行い、また新しい発見を直接吸収できる、特に有意義な機会でした。忍耐と長期的な取り組みをもってすれば、そうした発見がどこかにつながっていくのかもしれません。
ミハル・リプソン
Optica会長